清水っ娘、袴田事件を追う

清水生まれの23歳が袴田事件再審と関わりながら学んだこと。

袴田事件再審初公判に行ってみた!:長くて濃い一日の記録

第二回公判が明日に迫った今頃になって申し訳ないが、2023年10月27日に静岡地裁で開かれた初公判の日のことを書いていく。

ほとんど興味本位、少々の清水人としての勝手な使命感、そんな気持ちで行った初公判。
傍聴券は外れたのだが、支援者など多くの方々との素晴らしい出会いがあり、また記者会見にも参加することができ、あまりにも刺激的な一日であった。

はじめに断っておくが、この日の時点では何かを発信するという考えがなかった上に、一日に多くの方々とお会いしてたくさん話を聞きすぎて情報がごちゃごちゃな部分もある。第二回公判からは発信することを前提に、全身を耳にして過ごすつもりである。

それでは私の長く濃い一日をまとめていく。

◆8:30前 静岡地裁前に到着

まず目に入ったのは、地裁正面に大きなカメラをずらっと構える報道陣。整理券交付場所にはすでに長蛇の列。傍聴席26席に対し280人が来たとのこと。覚悟はしていたが、事件の大きさを改めて実感する。傍聴自体初めてでソワソワ。

◆9:00頃 整理券交付、移動

整理券をもらい、地裁の向かいの駿府城公園へ移動する。公園入口の橋には支援団体の横断幕が掲げられ熱気で溢れる。公園内のあちらこちらでは各メディアの取材が行われていた。

静岡地裁の向かい、駿府城公園入口の様子

◆9:45 当選番号発表

結果は外れ。合格発表のようなアナログな発表方法。帰ろうかとぼんやりしているところに浜松の袴田さん支援クラブの方々から声をかけていただき、その後行動を共にさせていただく。
アイコンにもしているピンクのキャップはいただいたもので、"HSC"(hakamata supporters club)と書かれている。可愛いのでずっと被っていた。

◆10:30頃 ひで子さんと弁護団のお見送り

地裁に入る前の袴田さんの姉ひで子さんと弁護団を支援者の方々が取り囲み、明るい雰囲気で声援を送る。このとき初めてひで子さんを生で拝見したのだが、とても90歳には見えない若々しく美しい方だった。45歳と言われても信じる。
ひで子さん自身も強くなりたくてなったわけではないだろうけど、やはりあの肌の綺麗さやピンとまっすぐな姿勢、前向きな性格とはきはきした口調……女性として、人として、憧れざるをえない。

◆11:00頃~ ひと言アピール

地裁の向かいの橋で、支援団体の方々などが一人ずつ意見表明を行った。冤罪、再審法の改正、死刑廃止、様々な思いが叫ばれていた。
その中に足利事件の冤罪被害者・菅家さんの姿もあった。
菅家さんの著作『冤罪 ある日、私は犯人にされた』や、再審のきっかけを作った清水潔さんの『殺人犯はそこにいる』を読んでいた私は、思いがけない対面に、迂闊にも内心はしゃいでしまった。菅谷さんが警察官、検察官への恨みを語る姿に胸が締め付けられ、泣いてしまうところだった。

◆12:00頃 ランチ

支援者の方々と一緒にお昼ごはんをいただいた。その中で袴田事件だけにとどまらず、日本や世界の司法制度やほかの事件、法理論などの話をたくさん聞いた。
この間、ほかの方たちは街頭でチラシを配ったりしていたが、のんびりしているうちに終わってしまっていた。

◆14:00頃~ 学習会

この後記者会見が行われる静岡県産業経済会館の会議室にて。
東京や大阪など、各地から多くの支援者が集まっていて、その活動内容や思いを聞かせていただいた。私のところにもマイクが手渡され、大変恐縮していてあまり覚えていないが、清水人として、若い世代として、何か力になりたいです、みたいなことを話したと思う。

◆17:00すぎ~ 弁護団記者会見

11:00に開廷した初公判は17:00前に閉廷、その後弁護団が記者会見を行った。
報道陣も多く押し寄せ、記者の方たちが殺気立ってタイピングしているなか、ひで子さんと弁護団、支援者の方々は非常に和やかなムードで、かなり温度差があった。

ひで子さんや弁護団の方々の発言が面白いので、お時間があればYouTube「袴田チャンネル」で生配信されていたノーカット版を見てほしい。
このチャンネルは袴田さん支援クラブが運営しており、他にも動画が充実しているので要チェック! ↓↓↓

www.youtube.com

最初に弁護団長の西嶋勝彦弁護士から初公判についての説明があり、その後ひで子さんが罪状認否の際に行った陳述を再度読み上げた。

‟1966年11月15日、静岡地裁の初公判で弟・巖は無実を主張いたしました。それから57年にわたって、紆余曲折、艱難辛苦がございました。
本日再審公判で、再び私も弟・巖に代わりまして、無罪を主張いたします。
長き裁判で、裁判所、並びに弁護士及び検察庁の皆様には大変お世話になりました。
どうぞ、弟・巖に、真の自由をお与えくださいますよう、お願い申し上げます。″

それから弁護団の方々が一人ずつ意見を述べられた。

小川秀世弁護士は、穏やかな口調ながらも皮肉をたっぷり交え、「検察は今までと同じ主張をだらだらと繰り返しているだけ。これなら有罪立証を放棄すればいいのに」と思いを語った。
角替清美弁護士は、終始嫌みったらしさ十分な語り口で、「ひで子さんの素晴らしい陳述を聞いて、検察官はよくもあそこに座ってられるな」と憤りを露わにしていた。検察側の主張を一つ一つ取り上げて強く非難する様子は聞いていて気持ちが良い。
他の弁護団の方も、検察側の同じような主張の繰り返しに、”結局何だったんだ?”という虚脱感を強く覚えていたようだった。

弁護団の会見での話を私なりにまとめると、
・検察側の主張は元の裁判での主張とほとんど変わらず、だらだらと無駄な時間を費やしている。
・ただ、再審では袴田さんの自白を用いないことにしたため、それにしたがって自白をもとに主張していた部分(犯行動機や侵入経路、犯行時刻、殺害方法、金の行方など)に前以上に矛盾が多く生じるようになっている。
・検察側はおそらく本気で有罪にしようとは思っていないし、無罪判決は下されるだろう。ただ、検察は一般の人々に”袴田さんが怪しい”と印象づけて、自分たちは間違っていなかったとアピールしたいのだろう。
というようなことだった。

裁判官も検察も弁護士も人間である以上、ときには間違えることだってある。だから、過去に誤りがあったのなら、素直に認めればいいだけの話ではないのか。私はそう思ってしまう。

弁護団の発言が終わり、記者からの質問に移る。特に新しい話は出なかったので、ここからはひで子さんの発言集にする。

Q. 再審が開始された今のお気持ちは?

ひで子さん「裁判というのは90歳になって初めてなんですが、のんべんだらりんとやっているんで…、今日検事さんの言うことを聞いていて、これじゃあ57年もかかるわけだよ!と思いました」
思わず会場が爆笑で包まれた。(よく考えれば笑い事ではないのだが……)

Q. 裁判官が袴田「被告」ではなく袴田「さん」と呼んでいたことについてどう思ったか?

小川弁護士が「さん付けで呼ぶことは最近の法廷では大分浸透しているが、このような死刑を求刑するような重大事件の被告をさん付けで呼ぶことは心に残った」と丁寧に回答されていたが、一方のひで子さんは、
「ぜんぜん気が付きませんでした」
とあっけらかんとしていた。

Q. 罪状認否で「お世話になりました」と検察庁にも言ったのはなぜか?

ひで子さん「私は"礼儀として"申しました。裁判所と弁護士だけではなんだかおかしいでしょ?(笑)」
”礼儀として”と何度も強調して繰り返す皮肉交じりの発言に、また会場が笑いに包まれる。

Q. 罪状認否のときに声が震えていたがなぜか?

この質問を誘導尋問のように何度かされていたが、ひで子さんは「自然に声が震えただけ」「特に理由はない」の一点張り。
記者の方々は感動的なストーリーを求めているのだろうが、欲しい答えは絶対にあげないという意地悪のように見えて面白かった。

最後にひで子さん、弁護団が今後の意気込みを述べ、19:00すぎに会見終了。

私にとって、あまりにも長く濃密な一日だった。

記者会見が終わってすぐ、何だか感極まってしまった私は、「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」事務局長・山崎さんに駆け寄り、「何か力になりたいです!!!」と言いに行ってしまった。山崎さんは、実際に血液を付けた衣類を味噌に漬ける実験を行って再審開始に繋げた、とにかく物凄い人物である。

現在、支援活動をされている方の年齢層はかなり高めである。若い頃から支援をしている方も、やっと再審が開始するまでにそれは長い年月を経てしまった。
私に対して「若い方が参加してくれてありがたい」と言ってくださる方も多くいらっしゃって、非常に嬉しく思う。

しかし私はむしろ、年齢的にも、知識などの点でも、未熟であることを恥ずかしく思ってしまう。それに、支援活動をされている方は皆若々しく元気で、とてつもないエネルギーを持っている。23歳の私は圧倒的に若いのにもかかわらず、体力も気力も行動力も、とても敵わない。

私が袴田事件という名前を知った時点で、もうすでに冤罪だというイメージは出来上がっていた。しかし、そう認識できていたのは、私が生まれる前から今までずっと、逆境を乗り越えて闘い続けてきた方々の功績にほかならない。

私はうまい汁を吸っているだけにすぎないのではないか、と不安になる。決してそんなことはしたくないのだが、じゃあ今から私にできることって何だろう、とぐるぐる考えてしまう。

まだ答えは見つかっていない。とりあえず今はなるべく事件に関わって、色んな人の話を聞いたり、たくさん本を読んだり、何でもいいからがむしゃらに頑張ってみようと思っている。
そしていつか、袴田事件を長い間支援してきた方に認めてもらえるようになるのが目標だ。

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熱くなってしまってすみません。
これはあくまで私個人の思いであって、一人でも多くの人が袴田事件に興味を持ってくださる、心の中で応援してくださる、それだけでもう十分だと思っています。

第二回公判は静岡地裁で明日11月10日(金)、開廷は11時。
傍聴整理券交付時間は8:30~9:00
※詳細は裁判所HPに記載されています。

予定が空いている方はぜひお越しください。
傍聴は難しくても、通勤・通学前等に静岡地裁前の雰囲気だけでも味わいに来てください。闘い続ける人間たちの底知れぬエネルギーを感じられると思います。

それでは、今日は傍聴券が当たるように徳を積んで、寝坊しないように早めに寝ることにします。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。