清水っ娘、袴田事件を追う

清水生まれの23歳が袴田事件再審と関わりながら学んだこと。

【傍聴記】第10回公判/証人尋問day1 《後編》:尻尾を出した法医学界の重鎮【袴田事件再審】

※この記事は後編です。前編はこちらです。
【傍聴記】第10回公判/証人尋問① 《前編》:裏切りの検察側証人【袴田事件再審】 - 清水っ娘、袴田事件を追う

さて、後半戦は、いよいよ法医学界の重鎮・神田教授への尋問。検察側が証拠とする、”7人の法医学者による共同鑑定書”をまとめた張本人である。

そんなオーラを身に纏い、慎重に落ち着いて話されるような方だったので、前編に比べて面白さには欠けます。すみません。

池田教授の尋問が予定時間をかなりオーバーしたようで、この日は弁護側からの反対尋問の途中までになった。

※前編同様、メモと記憶のみを頼りに書いているため、間違っている部分も多いかもしれませんがご容赦ください。雰囲気のみで楽しんでいただけますと幸いです。

検察側証人②:神田芳郎先生(久留米大学医学部教授)

神田教授の登場。池田教授の暴走を受けてか、全身から殺気立ったような空気を放ちつつも、飄々とした姿勢で証言台に座る。すらっとした体型に彫りの深いシャープな顔付き、どことない威圧感がある。

主尋問(検察側)

検察官からの尋問。まずは共同鑑定書の作成に至った経緯などを確認するところからだが、初っ端から強気の姿勢を見せる。

:「高裁決定を一言で言うと驚きの内容でした
:「どのような意味でしょうか」
:「科学的にちゃんとやってない。一般的な学者なら納得しないです。専門家にアンケートでも取ってみればいいと思います」

高裁の決定については池田教授も同じようなことを言っていたが、そもそも、裁判所の決定文と、学者の論文を比べること自体がナンセンスだと私は思うのだが...。そこは畑違いというものでは?

:「共同鑑定書作成のいきさつは」
:「検察が何人かに相談して、集まってweb会議を行いました。全員が“おかしい”と思っているのは共通していますが、主としている部分や関心の度合いはそれぞれ違います」
:「高裁決定について、共同鑑定書では”科学的リテラシーがない”と書かれていましたが」
:「科学的リテラシーというのは、自分の目で見て判断するということです。高裁の裁判官にはありません

神田教授。

高裁の裁判官は自分の目で見てますよ。少なくとも、実験もせず、3回web会議を行っただけで、鑑定書とやらを出す方々には言われたくない。

:「赤みが残る可能性についてどうお考えですか」
:「そもそも、赤みというのは主観的、抽象的なもので、光によっても変わります。まず、“1年以上みそ漬けにして赤みが残るかを判断するのは困難”ということを出発点とするべきです。科学的には、“ない”ことは証明できない。一件でもあれば覆ります。当時の1号タンクの状況がわからない以上はもっと難しい。赤みが残るのも残らないのも、完全に証明するのは不可能です」

それは科学的にはその通りだろうと思いますが、ここでそう言われても、何にもならないので…。

:「赤みが残るケースもありますか」
:「赤というのがそもそも抽象的ですから、例えば赤茶を赤と言うか茶と言うかというような話になりますが、あるといえばあると思います」
:「つまり程度の問題ということですか」
:「そうです。メト化はしていても、ヘモグロビンが破壊されているとまでは言えないかと」

ゆっくりと丁寧に話している様子だが、ボロが出ないように一つ一つ慎重に言葉を選んでいるような緊迫感が張りつめている。検察側としては巻き返しを図らなければいけないので、失敗はできないのだろう。

:「血痕と血液の違いについてはどうですか」
:「違いにはあまり意味はないかと。重要なのは化学反応が起こるかどうかではなく、速度と程度です。ただ、血液のほうが化学反応は起こりやすいです」
:「味噌の中にも十分な酸素があるという弁護側の主張については」
:「酸素は絶対量ではなく濃度の問題です。酸素を0にすることは不可能ですから、全くないということはないですが、どれくらい濃度が低いかが問題になります。実際の数値があれば我々も検討できるんですけども」

出た、たられば。そして結局はわからないというところに逃げていく。

:「検察側の実験については」
:「前提として、実際の1号タンクの状態はわからない。だから、1年2ヶ月という期間を過大評価しすぎるのはよくない。酸素も大事だし、他のファクターもありうるので、期間だけで計ってはいけないと思います。そして、実験結果をそのまま1号タンクに当てはめるのもよくないと思います」
:「清水教授・奥田教授の実験については」
:「他の要因、阻害するようなファクターを考えていないのが問題だと思います。酸素濃度を考えた実験はされずじまいで、黒褐色化を進めるようなファクターばかりを抽出していると思います」

何となくふわふわとした当たり障りのない主張ばかりで、正直あまり面白みがない。面白みを求めるのが間違いかもしれないが、池田教授が面白かったせいで、どうしても飽きてきてしまう。

反対尋問(弁護側)

弁護側、間先生から。

:「血液が赤みを失うメカニズムより、その速度が重要だというお考えでよろしいでしょうか」
:「そうです。メカニズムに対しては異論はありません」
:「低pHと高い塩分濃度でヘモグロビンが変性することはどうですか」
:「異論はありません」

そして、溶血反応(=赤血球の破壊)と浸透圧(塩分濃度)の話に。(私はあまり理解できていない)

:「共同鑑定書で、溶血反応は高い浸透圧で起こりやすいというのはミスリードだとありますが」
:「浸透圧は低いほうが普通は溶血が起こりやすいです。高い浸透圧でも起こることは否定しないので、間違ってはないですが...。10%のNaClなら壊れないかと...20%なら壊れると思いますが...」
:「塩分濃度に比例するということでしょうか?」

ここに新顔の検事さんから、「何の話をされてるんですかっ?グラフ見てますかっ?」と横槍が入る。

間先生が「単純に、こちらは相関関係があるかどうかの確認がしたいだけなのですが」と訴えても、「ちゃんとグラフを示してくださいっ」と繰り返すので、仕方なくグラフを提示することに。焦っているのか、茶々が多い。

:「相関関係は否定しませんが、一般的には生理食塩水(=0.9%)よりも塩分濃度が低くなるほど、溶血反応は起こりやすくなります。濃度が高いところでは、時間が経てば赤血球膜に傷はつくと思いますが…、10%のNaClは微妙ですね」

次の話題は血痕についてだが、これがなかなか進まない。何となく空気が停滞してくるのを感じる。

:「血痕というのは、どのような状態のものを想定されていますか?」
:「えー...まあ、一般的な、血液が布について、乾燥したもの、ですかね...?」
:「5点の衣類の状態を想定してはいないですか?」
:「想定はしてないです。実際のものは明らかではないので」
:「“水分を失う”とは、どのくらいの程度を想定されていますか?」
:「えっと......すみません質問の意図がちょっと...」

その後もめげずに、神田先生の想定する「血痕」の程度を確認しようとする間先生だが、何度聞き方を変えても、「ちょっと意図がわからない...」「すみませんやっぱりわからない...」と永遠に噛み合わず、諦めることに。

そして、次の話題。
なにやら、共同鑑定書で引用している文献の違う箇所に、味噌の麹のタンパク質分解についての大切なことが書かれていたか何かとのことで、その文献を見せて確認することに。他の部分には付箋がたくさん貼ってあったりするが、当該の箇所は読んだ痕跡はない。

:「ここはどうして引用しなかったのですか?」
:「...すみません、ちょっと気が付きませんでした」
:「読んではいるんですか?」
:「読んでます!読みましたが、気が付かなかった、としか言えないです…すみません…」

急にしおらしくなってしきりに謝る神田教授に、間先生も苦笑い。

:「...本当に読んでるんですか?先生が書きました?」
少し冗談っぽい口調で尋ねたのだが...。

:「な、な、な、なんでそんなこと言うんですか...!?

絵に描いたようなリアクション!これはさすがに笑ってしまう。

あーあ、化けの皮が剝がれちゃった。「共同鑑定書を書いただけ」だと思っていたのに、書いてすらなかったのか。あららら。

この後はずっと味噌や醤油の話。共同鑑定書のあとで麹に関する文献を見つけて、考えも変わったということだったが、しどろもどろになって語気が強くなる場面も。よくわからなかったので割愛。

16:50 閉廷

弁護団記者会見

まず小川先生が、「僕、聞き間違いかと思ったんですけれども…」と、池田教授の「1年以上も味噌の中に浸かっていたら黒くなるのは当然」という発言について驚きを見せる。

生地の白さについて触れられた点からも、「内心は直前に漬けられたと思っておられるのではないか」と述べ、「反対尋問がいらないくらい、こちら側に有利な証言をしてくれた」と朗らかな笑みを見せる。

角替先生は、神田教授を「料理をしもしないくせに妻の料理にケチをつける夫」と的確に例え、会場を沸かせる。さすが角替先生、痺れる~。

後で「それは角替先生の旦那さんのことですか?」と質問され、「すみません、うちは逆です(笑)」とおっしゃっていたりもして、かわいい、好きです。

水野先生は、神田教授は「結局わかんないでしょ」で終わらせようとしているとしていると指摘。だから、本当のことは誰にもわからないのに、結論を出している清水・奥田鑑定を攻撃しているのだという。なるほど。

そんなこんなで、とりあえず1日目が終了。
想像とは違ったドタバタの証人尋問だったが、単純にすごく面白かったし、またこの再審公判で、初めて普通の裁判を見ることができたと感じた。

何度も議論されてきたことをただ蒸し返すばかりの公判に、検察側証人とはいえ外部の人間が入ってきたことで、この裁判の異様さが浮かび上がったような気がした。傍聴しすぎて麻痺しかけていた神経に、検察側証人から見てもこの裁判はおかしいのだということが、ぴりりと刺激を与えてくれたのだった。

さてさて、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。証人尋問の面白さがうまく伝わったでしょうか。どうでしょうか。(後編はたぶんそんなに面白くないけれど)

前編のほうで大活躍してくださった池田教授は、3日目の対質尋問(検察側・弁護側証人全員まとめて尋問する)の際も素晴らしい働きをしてくださります。近々そちらの傍聴記も上げますので乞うご期待。

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それではまた。